感銘の海

5.氷

south atlantic storm aomi

暑い夏には、かき氷、アイスクリーム、冷たい飲み物等々、氷にはお世話になりますね。でも、昔の人達はどうしていたのでしょう? 王侯貴族ならば、冬の間に蓄えた氷を楽しむことができたようで、清少納言の「枕の草子」にも、かき氷の記述があるそうです。

drink with ice

とはいえ、我々庶民が夏に氷を楽しむようになったのは、200年ほど前の産業革命以降。人類の歴史数十万年のうち、わずか0.1パーセントの期間。我々にとって、きわめて特殊な体験に違いありません。

ところで、飲み物に入れる氷以外、どんな氷を見たことがあるでしょうか? 街に住んでいて見ることのできる一番大きなものは、おそらくスケートリンクの氷でしょう。

skating rink

私が航海中に見た大きな氷は、南極の氷山でした。

icegerg antarctic

初めの頃、南極にヨットで行けるなんて、考えもしませんでした。でもそのとき、私は世界一周の途上、南米のアルゼンチンにいたのです。南米から南極大陸まで、わずか1000キロ。日本から北米サンフランシスコまでの太平洋横断8000キロに比べれば、すぐ近くだったのです。

でも、本当に南極まで航海できるのでしょうか? 全長わずか7.5mという小さなヨットによる南極単独航海は前例がなく、しかも船体はスチール製ではなくFRP製だったため、氷に削られて穴が開く心配がありました。

stainless coverd hull

そのため、この写真のように船首をステンレス板でカバーしたり、船体の前部を金属メッシュで覆い、氷との摩擦に耐える工夫をしたのです。(詳細、および他の準備については、当サイト内に記載がありますので、興味がありましたら、御覧下さいね。)

もちろん、大きな氷を見た場所は、南極ばかりではありません。南米パタゴニアを航海中、何度も何度も氷河を見たのです。

romanche glacier

これはパタゴニアのビーグル水道にあるロマンチェ氷河で、〈青海〉から撮った写真です。中央に白く見えるのは、岩肌を落下する水流、滝です。

実は最近、驚くことに気づきました。Wikimediaで同じ氷河の写真を探してみると、上の写真のオレンジ枠内を撮影した、比較的最近の写真が見つかったのです。

romanch glacier

その写真がこれです。私が撮ったものと比べてください。オレンジに塗った部分の氷河が、なくなってることに気づくでしょうか。(オレンジ部分は、後から描き加えたものです。) 私が撮影したのが1983年の秋、Wikiの写真が2016年の秋ですから33年の間に、確実に氷河が減少しています。

パーマー基地

この写真は、南極の米国基地、Palmer Stationを出発する〈青海〉から撮ったものです。(1986) 中央左に青い母屋(三階建て)、その右に少し離れて白い石油タンク、それらの後ろに氷河が白く見えています。その氷河が、最近見た写真では、随分少なくなったように感じたのです。

そこで調べてみました。この場所を空から見てみましょう。Google Earth のデータをもとに、以下を作成しました。

パーマー基地と氷河

写真中、"Palmer Station"と書かれた辺りが、基地の位置です。右手から氷河が迫っていますが、その先端は青線で示してあります。この写真は、2017 年に撮影されたものですが、1975年の古い衛星写真をもとに氷河の先端を描くと、赤線のようになります。42年間に氷河が数百メートルも、大きく後退していることが分かります。

このような現象、氷河の後退は、世界中で起きています。次の写真は、北米大陸、アラスカ山脈に於ける氷河の変化です。各写真はNASAのGLOBAL CLIMATE CHANGEから引用し、一覧にまとめました。

アラスカ 氷河 減少

各写真下のオレンジ色の数字が、撮影された西暦年です。左右の写真が、同じ場所で撮影されたものとは、信じられませんね。景色が劇的に変わっていることが分かるでしょう。南極で、アメリカ大陸で、そして世界中で氷が減り続けているのです。

これらの事実から、地球温暖化の指標となる氷河の減退が、確実に進んでいると実感できるでしょう。このままでは温暖化による気候変化で、災害が頻発したり、農業生産に大きな影響が出たりして、深刻な食料不足が訪れるかもしれません。決して油断はできません。

今すぐ、何らかの行動を起こさなければ、地球という星に生きる我々の子孫の未来は、悲惨なものとなるかもしれないのです。

個人個人が日常、どうすればよいか、具体的に考え、行動しなくてはなりませんね。


それでは、2024年が皆様にとって、世界にとって、良い年となりますように。

ヨット<青海>より、お祈り申上げます。