感銘の海

1.太陽

sun of equator

街で暮らしていると、太陽を見つめることはまずありません。日食を観察するときでも、色つきの板を通して見るよう、学校で習いますね。直視すると、目を痛めてしまいますから。

そのせいなのか、我々は生活しながら、太陽の存在を常々感じているわけではありません。 太陽の光や熱は、確かに感じているでしょう。でも、太陽の実在、どれほどの距離にあり、どれほどの大きさで、いったいそれは何なのか、考えることはまずありません。太陽黒点の数も太陽の自転についても、ほとんど興味がないのです。

見えないものの存在を実感できない多くの人々にとって、直視できない太陽、普段から目を背けている太陽そのものは、太陽光や熱とは違い、無いものと同じかもしれません。

「太陽がなくても、蛍光灯やLED電球があるし、スーパーに行けば食べ物を買えるから、太陽なんて気にしなくていい」そうでしょうか?

supermarket

野菜はもちろんですが、スーパーで売っている肉は太陽で育った植物で育ち、魚は太陽で育ったプランクトンのおかげで生きています。

太陽がなくなれば、スーパーの食品棚は空になるかもしれません。そして我々の住む街も、人影が消え、やがては空になることでしょう。

なのに、我々は太陽に興味がありません。太陽のことをほとんど知りません。太陽黒点を気にしないのはもちろん、太陽の健康を自分の健康のように心配することもありません。これらは、同じことかもしれないのに。

god of the sun

昔の人々は、そのことをよく分かっていたのでしょう。世界中で神として太陽が信仰されていたのも、ごく当然のことかもしれません。いつのころから我々は、それを忘れてしまったのでしょう?

city and sea

一人で大海原に出ると、家もビルも店々も電車もありません。あるのは海面、そして太陽と月と星、雲と風。太陽との付き合いは、街に比べて何倍も深いのです。

太陽を直視することは、もちろん海の上でも、ほとんどありません。昇りかけた朝日や、沈みかけの夕陽などを除いては。

実は航海中、太陽をほとんど毎日見つめていたのです。GPSのない当時、自船の位置を確認するため、六分儀を通して太陽高度を測定していたからです。星や月を測定し、位置を計算することも可能なのですが、小さなヨット上から夜の水平線はよく見えず、太陽を利用することがほとんどでした。

南大西洋での出来事です。沿岸から200キロほど沖を北上していた<青海> は、自船の位置を見失っていました。嵐で、4日も太陽が出なかったのです。このままでは、陸に衝突するかもしれません。

south atlantic

嵐で大揺れの船上で、何度も何度も空を見上げました。しかし、空は厚雲に覆われ、雲の切れ間すらありません。

それでもあきらめずに、太陽が出るのを待ち続けました。と、どうでしょう。雲を通し、太陽の輪郭がうっすらと見えてきたのです。ただちに六分儀を握り、太陽に向けました。そして数十秒か長くても数分後、太陽の輪郭は消え去り、再び空一面が陰気な曇り空になりました。でも、なんとか位置を確認できた。本当によかった。本当に助かった。これほど太陽を心強く思ったことはありません。一生忘れられない思い出となりました。

gps system

残念ながら今では、このような体験はもうできないでしょう。GPSが普及し、太陽には関係なく自船の位置が分かるのですから。それだけに、太陽との結びつきは薄れてしまいました。何日も続く嵐の中で、やっと位置を確定できた、あの感動を、味わうことはもうできません。人は便利なものを使い始めると、元には戻れないものですから。

そうなってくると、大海原を渡りながら、空を見上げる必要はありません。船室の中に入ったまま、GPSを眺め、舵は電動オートパイロットにまかせたまま、大洋航海することも可能です。そして現代のヨットマンたちの中には、そんな航海をする人が決して少なくありません。まるで、街の中で暮らす人々のようですね

太陽を常に気にかけ、何度も空を見上げ、太陽とともに生活する航海は、もう過去のものなのでしょうか。

原始と現代の街

原始時代、いや数百年前でもかまいません。その頃の人たちが、現代人の生活を見たとしたら、どうでしょう。我々の命の源である太陽のことを、すっかり忘れて生きていると思うに違いありません。なにか変だ、このままでは大変なことになってしまうと、危機感を覚えないでしょうか。 そして、現代人に、アドバイスをくれるでしょう。街という人間の群れの中、その狭い範囲しか想像出来なくなった我々が、聞く耳を持っているとよいのですが……。


「感銘の海」 今後の予定

・月と星々
・風と波
・水平線
・雨と雪
・湾の神様
・生き物たち

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