航海写真の撮影、機材、後処理等について
<青海>で航海中の写真撮影、保存、後処理等に関して、少しばかりご説明しましょう。
●カメラについて
8年間の航海中
撮影に使用したカメラは、Fujica HD-S 予備も含めて計2台です。
このカメラは1979年に簡易防水カメラとして販売されたもので、カメラ屋で22,000円くらいまで値切って購入したと思います。露出は自動ですが、ピント合わせは手動でした。レンズは3群4枚構成のテッサーで、写りがよいと少し評判でした。
せっかく航海に出るのですから、一眼レフでちゃんとした写真を撮りたいと思いましたが、高くて買えなかったのです。しかたなく、HD-Sが防水ということもあり、このコンパクト機を選びました。
焦点距離は38mm固定ですから、もちろん望遠や広角の撮影はできません。航海中、撮りたい景色に出会っても、大きすぎてファインダーに収まりきらずにあきらめたり、逆に小さすぎてあきらめたことが、何度も何度もありました。 もし、一眼レフと交換レンズを持っていたら、違った写真が色々撮れたはずです。残念でなりません。
でも、防水カメラだからこそ、撮れた映像もあります。これは一例ですが、日本を出る前に<青海>の試運転と回航を兼ね、九州の博多から仙台まで、友人3人と航海したときのものです。この写真を撮った直後、波が頭上から崩れ、全身に海水を被りました。通常の一眼レフだったら海水が入り、故障していましたね。
とはいえ、このHD-Sの防水性能は、決して優秀ではありませんでした。しぶき等がかからないよう、常に気をつかわないと、中に水が入りますし、レンズの内側にカビが生えたこともありました。調子が悪くなるたびに、船室のテーブルで分解してシャッターの接点を磨いたり、レンズを外して清掃後に組み立てたのですが、レンズ構成が単純なこともあり、焦点が狂うこともなく、どうにか組み立てることができました。
特にカメラに限ったことではないのですが、たとえ防水と謳っていても、信頼すると大失敗する例は少なくないようですね。先日、友人の携帯電話(防水)に水が入って故障したのですが、防水の保証は2か月のみだと言われ、結局は買い換えたそうです。その人は、携帯を水没させたわけでもなく、汚れを水洗いしただけらしいのですが。
●フィルムについて
使用したフィルムは、各社のネガとスライド用ポジフィルムです。カメラ二台のうち、片方にはネガ、もう一方にはポジを入れ、同じものを撮ることも多くありました。ネガは現地現像、ポジは日本に送って現像と、危険分散を行いました。
帰国まで、ネガは密閉容器に入れて乾燥剤とともに船内保存したのですが、一部にはカビが生え、使用不能になったコマも少なくありません。また、船内では常に揺れているため、ポリエチレンのネガカバーに入れていても、付着したホコリやゴミ等により、フィルムに微細な擦り傷がつくことも考えられます。これはフィルムとはまた違うのですが、船室の本棚に入れた本は、世界一周の間に、揺れのため擦れ、かなりボロボロになりました。
航海中は、実のところかなり貧乏だったので、満足にフイルムを買えませんでした。南極に航海する前、アルゼンチンから日本のメーカーに手紙を出し、援助をお願いしたのですが、回答は、「フイルムは現地の販売店でお求めください」とのことでした。
そんなわけですから、フィルムは本当に貴重品でした。美しい景色が次から次へと出てくるのに、我慢しなくてはならないのです。シャッターボタンを押したいのに、押せないのです。いつもフィルムの残りが心配でした。もし、豊富にフィルムがあったら、もっとさまざまな写真が撮れたはずです。
余談ですが、上の写真に写っている積み重ねたフィルムは、多田雄幸さんからいただいたものの一部です。その直後、彼はBOC世界一周レースに出場、途中で亡くなりました。実は、これらのフイルム、もらった時点ですでに一年近く使用期限が切れていたのです。そんなことは気にもしない、豪快な方でしたね。私のような小心者は、些細なことにこだわるほうなので、もらったのに使いもせず、現在も大切に保管してあるというわけです。
さて、次はフイルムのデジタル化、そして修正、色合わせとの闘いが始まるわけですが、それは次の機会にご紹介できるかもしれません。
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