この美しい水の星、地球に生きていると、よく遭遇するのが「雨」です。
我々は雨のおかげで、食料や水の恵みを享受できます。
でも、砂漠って、雨が降らないかも? この地球上には、雨の少ない場所もあれば、雨が降りすぎる地方もあります。
上の図は世界の降水量分布です。年間降水量が250mm以下の所もあれば、3000mmを超える所もありますね。
ちなみに、日本の年間降水量は1700mm程度。世界平均の約2倍もあります。
図中の①は、〈青海〉が最初に寄港した北米サンフランシスコ。辺りには砂漠が広がっています。ここでガーデナーのアルバイトをしていたとき、雇い主のカワサキさんと、こんな会話がありました。
「ここカルフォルニア州はゴールデン・ステートと呼ばれる。なぜか分かるかい?」
「昔、金が発見されて人々が殺到した、ゴールドラッシュのせいでしょう?」
「それだけではないんだ。ここは砂漠の州だから、ゴールドというのは砂漠の色でもあるんだよ」
この写真は、地図上の②、チリのアタカマ砂漠で撮ったものです。ここは世界でもっとも乾燥した土地と言われ、上の地図では茶色、降水量250mm以下と表示されていますが、手持ちの水路誌によれば、砂漠の町Aricaの年間降水量は、なんと0.03インチ(約0.8mm)です。ところで、砂漠の夕焼けは本当に美しいですね。まるで夢の中にいる心地でした。「こんな景色が、地球上にあるなんて……」
幸いにも、ここには小さなヨットクラブがあり、〈青海〉を整備できました。砂漠の山の前で、写真のように陸揚げしたのです。船尾には小さな日の丸も見えています。
一方、雨ばかりが降り、途方に暮れる所もありました。地図上の③は、チリ多島海中部地方です。そこでは雨の日が多く、ほぼ毎日雨降りで、晴れる日は月に数日もありませんでした。常に小雨が降っている印象で、陰気な毎日、湿っぽい日々の連続でした。
チリ多島海中部に位置するEvangelistas島の観測データを調べると、年間降水量は119.9インチ(3045mm)、降雨日数は1年のほぼ全部、なんと326日となっています。雨降りばかりですね。
この写真は、小雨の中を南下したときのものです。針路の左右に不気味な岩山が高くそびえる中、〈青海〉は前進を続けます。雨水が幾条もの滝となり、岩の上を流れ落ちているのが分かるでしょうか。
雨があまりに多いものですから、山のくぼ地に水がたまり、あふれ出て、あちらこちらに滝を作ります。
では、大海原の上で、雨はどうなのでしょう? 実は資料がみつかりません。降水量を量るには、一箇所にとどまって観測する必要がありますが、船ではなかなか難しいですね。(これからは、人工衛星による観測から、海上の降雨量を求めることも可能になるでしょう。)
そこで参考になるかもしれないのが、海の塩分濃度図です。雨の多い場所は、雨水で薄まって塩分濃度が低くなり、雨の少ない所は海水が蒸発し、塩分濃度が高まる傾向があるはずです。
実際、上の図を見ると、前述したアタカマ砂漠の辺りは塩分濃度が高く、チリ多島海の付近では低いことが分かります。
この図は赤道無風帯の位置(ピンクの●印)を示していますが、その同じ場所を、塩分濃度図上で確認すると、黄色い帯となっていることに気づきます。赤道無風帯では、しばしばスコールが訪れ、海水が薄まるからでしょうか。
実を言うと、赤道無風帯を通過する際、スコールにはずいぶん助けられました。
マストに張った帆の下にバケツを置いておくと、雨水がどんどんたまるのです。3か月間の無寄港航海で、飲み水が不足していましたから、まさに天からの恵みでした。〈青海〉のような小さなヨットの場合、積み込める飲料水の量は限られているからです。サンフランシスコから3か月の航海を終えて南米チリの町Aricaに着いたとき、飲料水の残りはコップ数杯分でした。 もし、赤道無風帯で飲料水の補給ができなければ、大変なことになっていたのです。
降水量が世界平均の約2倍もある日本に住んでいると、〈青海〉の旅とは違って、雨のありがたさなんて実感しませんね。水があって普通、当たり前と思って暮らしています。でも、我々人間が生きていけるのは、水のおかげに違いありません。どうすれば、それを守っていけるか、取り合いにならないために何ができるか、じっくりと考えてみるべきかもしれません。あなたが水を飲むとき、それを思い出してほしいのです。
2023年が皆様と世界にとって、良い年となりますように。
ヨット<青海>より、お祈り申し上げます。