-- これは実話です --
平穏な海の落とし穴
マゼラン海峡から10マイルほど南、モーリス湾付近の朝
Critical Advice to Sailors
風向や潮流の影響で、航海が予想外に長引き、到着が大幅に遅れる場合は少なくない。熟知した港を除いて危険な夜間入港を避けるため、最悪の風向や潮流を想定し、航程を欲張らず、十分に時間的余裕のある航海計画を立てねばならない。
解説
月刊<舵>2011年06月号より。
マゼラン海峡の南に位置する水道内の航海です。
最初に、今回の場所を地図上で確認してみましょう。
マゼラン海峡は、太平洋と大西洋をつなぐ通路ですが、南米大陸はここで終わり、その南側には大小無数の島々が、ホーン岬まで連なります。<青海>はマゼラン海峡からさらに南下して、それらの島々の海域に入って行きます。
上の左の拡大図で分かるように、最初に通ったのはマグダレナ水道と呼ばれる通路です。
マゼラン海峡からマグダレナ水道に入ってすぐの景色が、以下の写真です。この山は標高2234mのサルミエント山(Monte Sarmiento)で、その息を飲む美しさと、頂上の二つに分かれた形で有名です。かのチャールズ・ダーゥィンも、その美しさに魅了されたということです。
水道内では天気がよく、海は穏やか、心地よい軽風が吹いていました。マゼラン海峡では烈風で難儀したのですが、まるで別世界にきたようでした。この穏やかな水道で、上の地図に示したモーリス湾に一泊したのです。
下の写真は、翌朝の出発時のものです。完全な無風でしたから、やむなくエンジンで進みます。まだ晴れていないモヤの一部には、朝日が金色に反射しています。
さらに進むと、氷河に覆われた山々が見えてきました。まわりの景色は、すがすがしく、とても気持ちのよいものでした。多島海中部地方の不気味な岩々の景色とは大違いで、とても健康的だったのです。風は少しあるようですが、ウィンドベーンのセッティングを見ると、向かい風のようですね。
景色は素晴らしく、風は心地よく、あまりにも平穏な時間が続いていたのです。
*
そんな素晴らしい航海だったものですから、舵誌の本文にあるように、<青海>は予定のソフィア湾の前を調子に乗って素通りし、さらに遠いニーマン湾を目指すことにしたのです。夕暮れまでには、どうにか到着できると油断していたのです。あまりにも海が平穏だったものですから。
ニーマン湾の入口は、上の右図で分かるように、進行方向に対して横に開いているため、近くに着くまでは見えません。ですから、その下(南側)にある島を目指して進んでいきます。左の図はニーマン湾付近の拡大図です。
南側の島を目指していた<青海>(上図の1番)は、やがて
湾の入口を目視します。そこから針路を変えて(2番)、湾の口に向けて進んでいきます。しかしこのとき、すでにあたりは暗くなりかけていたのです。
湾の入口を通り(3番)、湾内の島を通り過ぎたとき(4番)、あたりはもうほとんど闇に包まれていました。これでは錨を打つ位置を決めることも、陸からロープを張って停泊することもできません。
そこでどうしたかは、舵誌の本文に書いたとおりですが、本当に冷や汗をかく思いでした。
下の写真は、翌朝に撮影したものです。中央に<青海>が停泊しているのが分かるでしょうか。
殺伐とした岩山、異様な草木、不気味な雲、海面を吹く突風が立てる波紋。地の果てを思わせる荒涼とした景色に、何かを感じずにはいられませんでした。
その凄まじい雰囲気を少しでもお伝えしたいと思い、さらに大きな写真を下に載せました。左右に動かしてみてください。
↑ 上のスクロールバーを左右に動かしてご覧下さい。(ヨットに注目)
どうですか? 少しは雰囲気が伝わりましたか?
こんな人里離れた寂しい場所に、たった一人でいたら、あなたは何を感じ、考えるでしょうか。
up↑
トップページのメニューへ
Copyright(C) 2009-2024 Y.Kataoka
All rights reserved.