月刊<舵>2010年9月号より。
今回は、赤道付近の話です。
まずは、この地図を見てみましょう。
左の赤道部分を拡大したのが、右の図です。
これまでににお伝えしたように、赤道の南北では貿易風が吹いています。それはきわめて安定な風で、洋上では昼も夜もほとんど同じ強さと向きで吹いています。
町の中で暮らしていると、そんな地球上の大気の循環なんて、どうでもよいし、自分には関係ないことに思え、ほとんどの人は興味がないことでしょう。でも、今、この瞬間も確実に吹いていて、温帯に住む我々の生活にも、間接的に大きな影響を与えているに違いありません。
図を見て分かるように、北半球の貿易風も、南半球の貿易風も、赤道に向けて吹いています。ですから、両方の貿易風は、赤道付近でぶつかります。
ということは、その辺りで風は混ざり合い、片方が勝ったり負けたり、渦を巻いたりすることになるでしょう。
結果的に、風向きは定まらず、一般には弱く、と思うと、時には突風となり、不安定な天気となります。
この水域は、「赤道無風帯」とよく言われますが、「赤道不定風帯」と呼ぶほうが適切です。しかしながら、性能の悪かった昔の帆船にとって、「不定風」では船がまともに走らず、それは「無風」と事実上同じだったのかもしれません。
これは、赤道付近の断面模式図です。
ぶつかり合った両半球の貿易風は、このように上昇気流となって雲を作り、雨を降らせます。その結果、頻繁なスコールが訪れます。そのときの写真が、今回舵誌に掲載したものです。
ところで、最初の図を見て分かるように、赤道無風帯は赤道から少しずれていますね。実は、場所と季節によって位置が違うのです。
これは、海上保安庁の大洋航路紙付図より作成したものです。ピンクの帯が、赤道無風帯の概略位置ですが、太平洋、大西洋、インド洋と、それぞれ違うことが分かります。また、その幅も、図には反映していませんが、季節と場所で違っています。
さきほど説明しましたとおり、「赤道無風」帯は「赤道不定風」帯であって、決して無風の海ではありません。しかしながら、間違いなく凪が多く、<青海>の場合、丸1日以上前進できないことが何度かありました。スコールの際に吹く風をていねいに拾いながら、走る必要があったのです。
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スコールの後には、運がよければきれいな虹が出ます。これほど完璧な虹を、見たことがあるでしょうか?
陸の上では、建物や山に隠されたりで、切れ目のない完全な虹は、なかなか見ることができませんね。
上の写真では、虹の外側に、もう一本の虹が出ています。これは副虹と呼ばれ、色の順序が主虹と反対になっています。この副虹は、もちろん町の中の虹にもあるのですが、色が薄いこともあり、気づく人は多くありません。
赤道付近の海で、スコールがやんだ後には、しばしば長い凪の時間が訪れます。その間、ヨットは海に浮かんだままですが、サメがやってきて、周囲をグルグル泳ぎまわることもありました。
この写真は、デッキに立った状態で、カメラを水面に向けて撮影したものです。透明な海水を通し、水中のサメが鮮明に観察できました。胸ビレの先と尾が白い、Oceanic White
tip(ヨゴレ鮫) と呼ばれるサメの仲間です。体長2メートルほどでしょうか。 左下に写っているのは、水面上の船尾、ウインドベーンの一部と釣り糸です。
この動画は、友人が太平洋一周中に撮影したものです。小さなサメですが、数も多いし、ちょっと怖いですね。
赤道や熱帯地方の航海で、陸に立ち寄る際の注意点の一つは、誌上の「Critical Advice for Sailors」欄に書きましたが、現地特有の病気等です。私の場合、マラリアの予防薬と治療薬を事前に用意しました。これは、現地で入手できる保証がありませんし、場所によっては病院や薬局がないかもしれないからです。長年現地に住んでいる人は発症しなくても、外部から来た旅行者に限って発病することも考えられます。
また、これは熱帯地方に限ったことではありませんが、衛生上注意が必要なことの一つはネズミです。
捕まえたネズミの写真です。見たい方だけここをクリックしてください。(女性の方は少し気持ち悪いかもしれませんので)
<青海>の船首の食料置き場で撮影しました。ネズミ捕り用粘着材を、段ボール板に塗ったものです。
このとき、<青海>は沖に停泊していたので、なぜネズミが侵入したかは謎でした。
可能性としては、
1、水中を泳ぎ、アンカーロープを伝って侵入。
2、買い物バッグの中に潜み、陸から運ばれてきた。
これらが考えられます。
他の船に接舷中に、ネズミが引っ越してくる場合もあるようです。
また、ウォーター・ラットと呼ばれる、足に水かきのついたネズミもいるそうです。
念のため、アンカーロープにネズミ返しの板を作って取りつけました。