-- これは実話です --
第12話  氷河の青いスクリーン

アンデスの山々から氷河が崩れる、セノ・アイスバーグ入江の水面

Glaciers of Chilean Patagonia

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**エピソードの本文はこちらをご覧ください。



Critical Advice to Sailors

水面に漂う大きな氷に、不用意に近づいてはならない。大部分が水面下に隠れているため、不意に船底が接触したり、ときには分離して浮上する氷に船底を打たれることもあるという。また、船体が金属製ではなく、木製や強化プラスチック製の場合、氷との接触による摩耗を十分に警戒する必要がある。




 解説


月刊<舵>2011年02月号より。

第12話目は、氷河の入江の話です。

まず最初に、氷河は地球のどこにあるのでしょう?
下の図は、米国地質調査所のデータをもとに作製したものです。

world glacier map

白い部分が氷河の所在地ですが、南極やグリーンランドのほとんどは、氷河に覆われていますし、南北アメリカ、北欧、ヒマラヤ、ニュージーランドやアフリカにもあることが分かります。

今回ご紹介する南米の氷河は、細長いチリの国土のように、南米西岸沿いに続いていますから、チリ多島海をヨットで旅する際、何度か見るチャンスに恵まれます。

ところで、氷河って何でしょう?

以下の図は、氷河の出来方の説明です。(海に崩壊する場合)

glacier

・まず、山に雪が降り積もります。
・そこが寒い地方で、夏でも雪が溶けないと、雪はどんどん積もって厚くなります。
・すると重みで、下の方の雪は圧縮されて氷になります。
・それが山の斜面をゆっくりと(場合によっては数万年もかけて)滑り落ち、ついには海に崩れ、浮き氷や氷山になります。

今回ご紹介するSENO ICEBERGという入江では、氷河が海に崩れる様子を見られると聞き、どうしても訪れたいと思ったのです。

「氷河って、写真で見たように、本当に青いのだろうか?」
「氷が浮く水面を、ヨットで走れるだろうか?」
「氷に囲まれて、戻れなくなったらどうしよう?」

でも、氷河というものを、なんとしても一度見てみたい。ともかく行ける所までは行ってみようと決めたのです。


そのSeno Iceberg入江は、南米に延々と続くチリ多島海の中ほどに位置しています。本来は真っ直ぐに南下するわけですが、ここで<青海>を少し寄り道をさせて、生まれて初めて氷河を見ることにしたのです。せっかくのチャンスを逃す手はありません。

下の図を見て分かるように、島々とその間の水路が、複雑に入り組んでいますね。そして海とは続いていない、湖や池のようなものがとても多い事に気づきます。

seno_iceberg_map

<青海>は狭い入江の中に進入していくわけですが、最初に現れた景色は、下の写真です。



これを見たとき、何が何なのか、わけの分からない気持ちになりました。こんなものは、過去に一度も見たことがなかったからです。

入江の行き止まりには、青白く光っているものがありました。でも、その大きさは見当もつきません。大きさがわからないということは、そこまでの距離も想像できないということです。まるで、入江の奥に映画のスクリーンが張られ、そこに青白い画像が映っているようでした。

海面を見ると、白く濁っていることに気づくでしょうか。氷河が山から滑り落ちる際、岩肌を削り取ってきますが、その粉のせいではないでしょうか。また、前方の海面と山や氷河の境目には、無数の氷が浮いていることに気づきます。





さらに近寄りました。すぐ前の海面には、氷がいくつも浮いています。これ以上の前進は危険です。船体が氷と接触したら、たちまち穴があくかもしれません。強化プラスチックの船体では、ここで引返すのが賢明です。

と思い、一度は引き返したのですが、氷河の青色は、あまりにも魅力的でした。もっと近くに行ってみたいと思ったのです。




氷の浮く海面を進んでみると、思ったほど氷は密ではなく、思いのほか安全に進めるようでした。

雲の切れ間からは、ときおり太陽の光が差し込み、海面や氷河や山々の岩肌をスポットライトのように照らして移動していきます。周囲の眺めは、さながら不思議の国のようでした。



さらに近づきました。氷河が山から海に崩れ落ち、浮き氷や小さな氷山になっています。右奥から左の海面に向かって、氷河の移動している状態が分かるでしょうか。



もうこれ以上は進めません。氷がぎっしりと海面に詰まり、通れそうなすき間はありません。あきらめて引返すことにしました。

が、実を言うと、この後が大変だったのです。狭くて長い入江の中を、真向かいの猛烈な風に逆らって、タッキングを繰り返しながら、迫る日没と競争するように駆けたのです。

両側に崖が切り立つ狭い廊下のような水路で、片手に舵、もう片手にメインシートを握りしめ、降り始めた雨の中を必死に走りました。視界が悪く、左右の壁も直前に近づくまでよく見えません。もしかすると日没までに停泊場所に着けないかもしれません。本当に怖い思いをしたのです。

そして入江を出たとき、すでに闇夜が始まっていました。もうほとんど何も見えない状態です。

が、その闇の中に、小さく光る明かりが見えました。チリ海軍が設置した灯台です。ガスボンベで働く、小さな小さな灯標です。

それを目印に闇の中を進み、灯標の前に錨を打ち、アンカーロープを150mも伸ばしました。朝まで風に流されないよう願うばかりです。


(続くかも?? )


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